顎関節治療
顎関節治療とは、口を開けると音や痛みが生じる病気「顎関節症」に対しておこなわれる治療です。治療方法は薬物療法や理学療法、外科手術など多岐にわたります。
顎関節症の原因は噛み合わせが悪いからと思う人も多いですが、焦って歯列矯正や歯を削る必要はありません。以前は顎関節治療に歯列矯正や歯を削るなどの方法をとってきましたが、近年の研究によりそれらの方法は治療効果に大きな影響を与えないことがわかりました。
顎関節症は生活習慣を改善するだけで、症状が治まる場合も多いです。顎関節治療はセルフケアから始めます。顎関節治療は手術を除いてほとんどが対症療法のため、関節が受けたダメージを修復することはできません。
治療によって痛みなどの不快症状が解消され、日常生活に支障がなくなる状態にします。顎関節治療によって、一時的に症状が改善することはあっても原因を取り除かない限り再発するリスクがあります。顎関節を傷めないためにも原因にアプローチして予防することが大切です。
顎関節症とは
顎関節や顎を動かす筋肉に異常が生じることで、口を大きく開けられなかったり、口を開けたときに音や痛みが発生したりする症状があらわれる病気です。
顎関節症は20〜50代で発症することが多く、男性よりも女性に多い病気です。症状は一時的で自然治癒する人もいます。
顎関節症の症状は主に以下の3つです
口を開けると音が鳴る
食事中や口を大きく開けたときに、耳の前あたりで「コキコキ、ザラザラ、カクカク、ゴリゴリ」などといった音が鳴ります。硬い食べ物を噛んだ時に額が「ガクっ」と音が鳴る場合もあります。
口を開けると顎が痛い
口を開けると片方または両方のエラ付近に痛みが生じます。特に口を開けたときに痛みを感じやすいです。顎関節を押すと痛みがある場合もあり、これを圧痛とよびます。
口を大きく開けられない
平均的な開口量は、縦に指が3本入る程度です。顎関節症は関節の動きが制限され、開けにくくなります。症状が進行すると痛みがあってさらに口が開けられなくなります。
上記いずれかの症状が当てはまると、顎関節症と診断されます。顎関節症を放置していると、顎だけでなく頭痛や肩こりにもつながる場合があります。
顎関節症の原因
TCH(Tooth Contacting Habit)
TCHとは、上の歯と下の歯が無意識に接触している状態のことをいいます。通常は口を閉じていても上と下の歯は接触しません。顎関節症を発症する8割の人がTCHがあるといわれており、顎関節症の最大の要因です。TCHを改善することにより、顎関節症も軽快しやすくなります。上下の歯が接触しやすい状況は、ストレスを感じているときや姿勢が悪いときです。
日常生活における癖
以下のような習慣がある人は、顎関節に負担がかかりやすくなっています。
- 歯ぎしりや食いしばりがある
- うつぶせ寝をする
- 頬杖をつく
- 片側ばかりで噛んでいる
歯ぎしりは睡眠中に発生し、歯を横にギリギリとこすり合わせるタイプと上下の歯を縦にカチカチと噛み合わせるタイプがあります。食いしばりは強い力で歯を噛み合わせており、睡眠中だけでなく日中にも無意識に起こっている場合があります。どちらも顎関節への負担はかなり大きく、負荷は体重の2〜3倍ともいわれています。
うつぶせ寝や頬杖をつく行為も顎関節に負担がかかりやすいです。
また、食事のときに片側ばかりで噛んでいると一方の顎関節に負担が集中し顎関節症を発症する場合があります。
上記以外にもスポーツをしている人や力仕事をしている人も、歯を食いしばる傾向があるため顎に負担がかかりやすくなります。
噛み合わせの悪さ
顎関節に負担がかかりやすい噛み合わせになっている場合は、顎関節症になることがあります。虫歯などの治療により詰め物や被せ物を入れたことによって、噛み合わせが悪化する場合もあります。
抜歯したまま放置している
歯を抜いたまま放置すると歯周組織に空白が生じるため、噛み合わせが悪くなったり、顎の動きが制限されたりします。顎関節の負担が長期的に続くと、顎関節症を発症しやすくなります。抜歯をした際はできるかぎり、ブリッジやインプラントなど人工歯で補完する必要があります。
顎関節治療
スプリント治療(マウスピース治療)
睡眠中の歯ぎしりや食いしばりによる顎関節や筋肉への負担を、スプリントと呼ばれるマウスピースで軽減する方法です。ナイトガードと呼ばれることもあります。シリコン素材とプラスチック素材の2種類あり、医院によって取り扱っているマウスピースが異なります。夜間のみで日中に装着する必要がないため目立つ心配もありません。保険適用内で作成できます。
薬物治療
顎関節や筋肉に痛みが生じている場合は、鎮痛薬を服用して痛みを取り除きます。非ステロイド性抗炎症薬を使用しますが、痛みの程度が強い場合は非麻薬性オピオイドや抗うつ薬を使用します。顎の筋肉の緊張を弱めるために、筋弛緩薬が使われることもあります。
近赤外線レーザーやボトックス注射、電気療法
近赤外線レーザーは顎関節の痛みをやわらげるのに効果的です。筋肉の過度な緊張を取り除くために、ボトックス注射をする場合もあります。また、筋肉に低周波の電気刺激を与えて血流をよくする方法もあります。
マッサージやストレッチ
口を開け閉めしながら顎を動かして、可動域を広げていきます。関節円板をもとの位置に戻すマッサージや、筋肉や靭帯の柔軟性を高めるストレッチをおこないます。患部を温めて血行をよくし、痛みをやわらげる方法もあります。
生活指導
顎関節症の原因となる生活習慣の改善をはかります。
- 口を大きく開けない
- 左右均等に噛む
- 硬い食べ物や長時間の食事を避ける
- 日中は食いしばらないよう意識する
- 頬杖やうつぶせ寝しない
歯列矯正
顎関節症の直接的な治療方法ではありませんが、噛み合わせが原因と判断された場合は歯列矯正で改善する場合もあります。
外科手術
上記の治療方法をおこなうと、2週間〜3か月程度で改善されることがほとんどです。ただし、顎関節症を発症した3割の人が1年以上たっても症状が続いているという統計結果が出ています。
難治性や顎関節の変形が大きい場合は専門機関での治療が必要になるでしょう。手術には関節円板を整復したり、人工関節に置換したりなどさまざまな種類があるので、症状にあった方法を選択します。
外科手術は全身麻酔でおこない、数日間の入院が必要になるケースが多いです。
顎関節症の検査
開口量の測定
自分で口を開ける方法と、医師が口を開ける方法の2種類で計測します。40mm以上開けば正常です。
関節の運動検査
関節包や滑膜に炎症が起きていないかを確認する検査です。顎を押したときに痛みを感じないか、口を開けたり閉じたりしたときに関節が正常に動いているかなどをみます。
下顎マニピュレーション検査
下顎を前方に引っ張って、関節の動き具合と痛みの有無を確認します。後方に押しても同様の症状がないかをチェックします。
画像診断
顎関節治療を継続してもなかなか症状が改善されない場合、ほかの疾患との関係がないか画像検査をおこないます。関節や骨の形に異常がないかレントゲンやCTを撮影して確認します。MRIでは関節円板や筋肉に異常がないかを中心に調べます。
顎関節治療の注意点
顎関節症の3つの症状はほかの疾患でもみられる場合があるため注意が必要です。顎の近くには歯や耳、鼻などの器官があるため、これらが原因で顎関節に異常をきたしている場合もあります。顎関節の症状が長引く場合は、CTやMRIなどより詳しい検査が必要になります。