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抜歯の適応
こんにちは。JR国立駅南口30秒の歯医者、国立みんなの歯医者・矯正歯科・小児歯科・歯科口腔外科院長の三井です。先日、抜歯を逃れる方法を書きましたが、今回は抜歯の適応について整理していきます。
1.抜歯基準
歯を抜く原因は、上の図のように一位が37.1%歯周病です。歯周病学会による抜歯の基準は以下のとおりです。
<歯周病学会の抜歯基準>
⒈歯周治療初期における抜歯の判断基準
1)対症療法を行なっても、過度の動揺により痛くて噛めない結果、回避性咀嚼を行なってしまう場合
2)十分なデブライトメントができない、あるいは残間固定ができないほど進行した歯周炎
3)治療中頻繁に急性症状が生じ、広範囲歯周組織の破壊の原因となる可能性がある場合
4)どのような治療計画を立案した場合も利用価値が見出せない場合
⒉暫間的に保存し、歯周治療後期に抜歯を行うための判断基準
1)臼歯部咬合高径を維持している場合
∟プロビジョナルレストレーションに置き換えられた後に抜歯
2)臼歯部咬合径を維持しており、かつ隣接領域にインプラントを埋入した後も機能している場合
∟インプラントの上部構造が装着された後に抜歯
3)隣接領域の歯周外科を予定している場合
∟予後不良歯は隣在歯の歯周外科の治療と同時に抜歯
となっています。
<歯内療法学的な抜歯基準>
①残存歯質の量と質
②歯周組織の状態
③根尖性歯周炎
となっており、根尖性歯周炎に関しては外科治療まで含めるとマネージメントが可能のため抜歯の基準判定は低くなっています。日本における再根管治療の成功率は約40%と言われており、予後不良の場合、外科的歯内療法を行うと90%が治癒する可能性があると言われています。
外科的歯内療法を行っている医院はまだまだ少ないのが現状です。他院で抜歯と言われた患者さんも一度ご相談ください。
Avila らは2009に抜歯のフローチャートを発表していますが、その中で抜歯を判断する評価項目を6つに分類しています。
- 初期評価
- 歯周病の重症度
- 根分岐部病変
- 疫学的要因
- 補綴的要因
- その他
に分け、それぞれの小項目に対して評価を行い、結果をカウントして判定を行うチャートを報告しました。
各項目に赤、黄、緑の評価があり、その数により抜歯の推奨度を判定します。
赤3つ以上 or 赤二つ+黄2つ以上:抜歯推奨
赤2つ+黄1つ or 赤1つ+黄3つ以上 or 黄4つ:抜歯検討
赤1つ+黄2つ以上 or 黄3つ:治療が適当だが、予後不良の場合抜歯推奨
黄2つ:メンテナンスが妥協案
黄1つ or すべて緑:歯の保存を推奨
細かく評価を行いますが、最終的には患者さんと相談して決定していきます。
2.予後の診断
1つ1つの歯に対して、将来その歯の状態を医学的な経過についての見通しのことを予後と言います。「保存」or「抜歯」の2つではなく、下記のようなタイプに分けて予後判定をしています。
①Good:予後良好
②Guarded:予後悪化の要因をもつが、現在は機能的問題がない、あるいは軽度。また治療により改善の期待がもてるもの、メインテナンス可能。
③Poor:予後悪化の要因をもつもの。現在のところ機能はしているが、メインテナンス困難なもの。
④Hopeless:予後不良で機能に問題あるもの。抜歯の適応です。
Hopeless(抜歯の判定)は、過度の動揺や根尖(根の先端)まで進行した骨吸収などの条件から、前述した判断基準に照らして決定しています。
Machteiの1989年の研究によると、Hoplessの歯を無理やり残すと、隣在歯を抜歯するリスクが10倍上がるという発表があります。無理に残すことで周りの歯を巻き込んで悪くなってしまいます。
3.補綴の種類
どんなに頑張っても保存が困難な場合、もしくは残すメリットよりリスクが上回る場合、歯牙保存は不可能になります。歯を抜いた後の治療方法を補綴(ホテツ)といいますが、いくつか種類があります。
(1)ブリッジ治療
歯がないところの両隣の歯を削り被せ物で連結する方法です。セメントで固定するため取り外しはないですが、連結部の下あ清掃不良になるためブラッシングの注意が必要です。残っている歯が少ないと治療が困難場合があります。また残った歯に負担が増えるため将来的に歯が折れたりするリスクが増えます。
(2)入れ歯治療
入れ歯には部分入れ歯と総入れ歯があります。ブリッジと違い両隣の歯を削らなくても作ることが可能ですが。しかし、着脱が必要になります。清掃やメンテナンス、修理はしやすいですが、噛む力の回復には限界があります。また歯茎にも負担が加わるため、最初のうちは圧迫感や擦り傷などができる場合があります。
(3)インプラント治療
骨に人工の歯根を埋入し、そこの被せ物を作る方法です。両隣の歯を削らずに作ることが可能で、着脱も必要ありません。外科的処置が必要なため、事前に骨の状態や全身に健康状態の検査が必要です。また保険適応外になります。治療期間も半年ほどかかりますが、噛む力•審美的な回復が可能になります。
インプラントに関する記事も併せてご覧ください。
(4)歯牙移植
主に親知らずを抜歯部位に移植する方法です。インプラントと比較して拒絶反応が起こりにくいことと、歯根膜の有無が大きな違いになります。インプラントのリカバリーはとても大変です。まず可能であれば歯牙移植を行うことで、インプラントの埋入時期を遅らせることが可能であればとても効果的だと考えています。もちろん、親知らずを残すリスクはありますので、しっかりセルフケアが可能なことが条件になります。
[歯牙移植]
1990年代以降、歯周組織と歯根膜の治癒および歯根吸収の研究が行われ、移植成功率が急速に増加し臨床的にも注目されるようになった方法です。
歯牙移植での合併症は、根吸収、付着の喪失などがあるがインプラントより低いです。移植により歯槽骨の維持、再生、付着の回復が期待されるため審美的回復はインプラントより容易であり外科的侵襲も一回で済み、費用に関してもインプラントより安価です。また移植歯を用いて矯正治療も可能です。
<移植の成功基準>
- 病的動揺なし
- 臨床的には不快感がなく、正常なポケットプローブ値
- X-ray的には根吸収がなく、正常な歯根膜腔、歯槽硬線が存在する
成功に導くためには、
•健康な歯根膜の健康な歯根膜が移植された歯牙に存在する必要がある
•移植される歯根形態が単純である必要がある。
•口腔外での時間を短くするべきである
•可能であれな移植までに根管治療をおこなう
•歯牙レプリカを用いて移植床を形成する
CTデータから作成した歯牙レプリカと抜歯した親知らず
今回は、悲しいですが、抜歯ついてお話でした。仕方なく抜歯になってしまっても、なるべく他の治療の選択肢を残すためにも歯牙移植についても積極的に提案させていただいてます。親知らずや移植可能な歯牙が残っていることなど、条件は厳しくなりますが、自分の歯を使い続けることが出来れば、他の補綴よりとても優れる治療方法になると考えています。補綴についてお悩みの方はぜひ一度当院スタッフまでご相談ください。