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全身疾患について
こんにちは。JR国立駅南口30秒の歯医者、国立みんなの歯医者・矯正歯科・小児歯科・歯科口腔外科院長の三井です。
今日は、超高齢社会に突入している現在、歯科の現場でも直面する有病者の整理をしていきます。特に遭遇する可能性の高い全身疾患6つについてお話しします。
【目次】
1.高血圧
2.心房細動(不整脈)
3.虚血性心疾患(狭心症•心筋梗塞)
4.糖尿病
5.慢性腎臓病(CKD)・透析
6.脳血管障害(脳卒中)
1.高血圧
有病率
全年齢:25%以上
高齢者:45%以上
高血圧とは慢性的に血圧が上昇している病態のことです。高血圧が続くと、血管内皮細胞が障害を受け、動脈硬化や塞栓、破裂を引き起こし、脳や心臓、腎臓などの生命活動に重要な臓器が傷害されてしまいます。脳血管障害、心筋梗塞、高血圧性腎症、大動脈解離などにより死に至る可能性が高くなります。一般的に高血圧の方には降圧剤が処方されます。
<降圧剤の一覧>
- カルシウム拮抗薬
- アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
- ACE阻害薬
- 利尿薬
ノルバスク、アムロジン、アダラートなどが多いです。
診療中は、痛みや緊張、ストレスによる急な血圧上昇に注意が必要です。特に高齢者でこのような反応は多く見られます。痛みのコントロールや、ストレスが減るような優しい声かけや対応が重要です。
著しく血圧が高い場合、治療を中止する場合がございます。明確な数値はないですが、180/120mmHg以上の場合、治療の中止を提案します。とくに下の血圧が100を超えるような場合、中止や延期をするのが望ましいです。
高血圧治療ガイドラインが2019年に改定され、高血圧の基準は140/90mmHg以上で変わりはありませんが、血圧を下げる目標値が変更されました。75歳以上で脳血管障害、慢性腎臓病をもつ患者さんでは140/90mmHg未満に下げるのが目標となりました。それ以外の方では130/80mmHg未満が目標となりともに低くなりました。アメリカの高血圧の基準値はは130/80mmHg以上に引き下げられています。
高血圧緊急症といい、脳や心臓、腎臓、大血管に傷害が発生すると緊急入院・緊急降圧が必要となります。歯科治療時にも、事前に血圧を把握しストレスを与えないよう注意しましょう!
2.心房細動(不整脈)
有病率
全年齢:10%弱
高齢者:15%強
不整脈とは、心拍数と心拍のリズムが乱れることを言います。加齢とともに不整脈は増加します。代表的な不整脈が心房細動で、脈がバラバラになり脈拍数が上昇します。持続すると左心房に血栓が作られやすくなり、脳梗塞などのリスクが高くなります。
心房細動の一般的な症状には、動悸、息切れ、疲労感、めまい、胸痛があります。一部の患者さんは明らかな症状がく、心電図検査で不整脈が見つかる場合もあります。
歯科治療の際は、抗凝固薬の作用により出血のコントロールが難しくなります。歯石除去でも出血を伴うことがあるため、部位を限定し、少しずつ進めていきましょう。またパルスオキシメーターを使用することが推奨されています。
また、休薬する場合、医療機関に必ず確認を行います。休薬することで脳梗塞のリスクが高くなる場合もあるため、事前に医師と確認し患者さんにリスクを説明して同意を得る必要があります。
お薬としては、ワーファリンが有名ですが出血事故が多く、またビタミンKの服用に注意が必要です。最近では直接経口抗凝固薬(DOACs)が開発され多く処方されています。
3.虚血性心疾患(狭心症•心筋梗塞)
有病率
全年齢:5%強
高齢者:11%強
心臓の筋肉に酸素を供給している心臓の外側にある冠状動脈が狭窄したり閉塞することで心筋が低酸素状態(心筋虚血)となり、心機能が低下した病態のこと。狭心症と心筋梗塞に分けられます。
狭心症は、一過性で心筋の壊死はなく心機能低下も比較的小さいです。一方心筋梗塞は心筋が壊死するため心機能の低下はより強く、とくに壊死の範囲が広い場合は重篤な結果となり突然死する場合もあります。
治療方法としては、薬物療法、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)、冠動脈バイパス手術(CABG)などが行われます。
恐怖感や不安などの感情の変化で起こるストレスにより引き起こすと言われています。そのため優しい声掛けと接し方を心がけましょう。
抗血小板薬を服用されている方でも、歯科治療の際は服用は中止しません。経口抗凝固薬による出血より止血は容易のため、通常の止血方法で対応可能な場合がほとんどです。
最近では冠微小循環という、心臓の筋肉の中の細い血管の重要性が注目されるようになりました。
4.糖尿病
有病率
全年齢:10%弱
高齢者:15%強
膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンが減少したり、インスリン抵抗性が上昇し高い血糖値が持続される病態のことです。慢性腎臓病、虚血性心疾患、脳血管障害などの重篤な合併症を引き起こしうるため、血糖値を下げる治療が必要になります。
インスリンなどを使用している場合は低血糖が起きやすいので注意が必要です。歯科治療を行う上で、最も注意すべき急性の合併症が低血糖で、インスリンやスルホニル尿素薬、速攻型インスリン分泌促進薬を使用・服用している患者さんに発生する可能性があります。空腹時の治療は低血糖を引き起こしやすくなるため避けるようにしましょう。
糖尿病患者さんは食事の時間を決めていることが多いため、いつも通りの食事ができるようアポイントも注意して取るようにしましょう。また決められた量の血糖降下薬を使用あるいは服用して来院するよう指導します。低血糖が起きたらブドウ糖を含む飲み物などを飲んでもらいます。意識が減弱し経口摂取が困難になった場合119番に連絡します。
5.慢性腎臓病(CKD)・透析
有病率
全年齢:5%未満
高齢者:8%弱
腎臓が本来の機能を慢性的に果たせなくなった病態。正確な定義は、尿タンパクあるいは糸球体濾過量の低下が3ヶ月以上持続するものとなります。主な原因は糖尿病と高血圧です。なかでも糖尿病患者さんの40%以上がCKDを発症すると言われています。CKDになると脳卒中や心筋梗塞、心不全そして死亡リスクが上昇します。CKDは徐々に進行し最終的には腎臓がほぼ機能しなくなります。これを末期腎不全といい透析や腎移植が必要となります。
透析を受けている方への配慮すべき点は次の項目があります。
- 歯科治療は透析の翌日とする
- 循環動態が不安定であるため高血圧と低血圧に注意する
- 血圧測定時のカフは透析時のアクセスのない腕に巻く
- 感染症に対するスタンダードプリコーションを行う
- 出血傾向を示す場合があるため止血に注意する
- 体位変換は段階的に行う
また、鎮痛剤としてのNSAIDsは腎機能を低下させるため投与はなるべく控えなければなりません。
さらに糖尿病を伴う場合、治療方針治療方法が変更になりました。
糖尿病をともなうCKDの治療方法
- ライフスタイルを変更(食事、禁煙など)する
- 第一選択薬(SGLT2阻害薬、メトホルミン、RAS阻害薬、スタチン)を投与する
- 心臓と腎臓を保護するための薬剤を追加投与する
- 追加的危険因子を管理する
6.脳血管障害(脳卒中)
有病率
全年齢:5%強
高齢者:11%弱
脳血管の異常を原因とする脳あるいは脊髄への障害を脳血管障害(脳卒中)と言います。虚血によるものと出血によるものに分けられます。発症は突然であり、症状は脳の神経障害が発生した場所とその大きさにより異なります。発症リスクは年齢とともに上昇します。
リスク因子には高血圧、ストレス、脂質異常症、喫煙、肥満、運動不足、家族歴、糖尿病などがあります。医学の進歩により回復率と生存率は改善していますが、さまざまな合併症が発生します。歯科で注意が必要なのは嚥下障害です。
歯科治療時に注意すべきことは、痛みやストレスによる血圧上昇を起こさないよう配慮することです。特に血圧コントロールは重要になりますので、術前、術中、術後のモニタリングは行いましょう。
脳血管障害の前兆と警告症状として、アメリカ心臓協会・アメリカ脳卒中協会(AHA/ASA)では以下のし症状が現れたらすぐに119番に連絡するよう警告しています。
F:Face顔の麻痺
A:Arms腕の麻痺
S:Speech言葉の障害
T:Time時間
一般的に発症後6ヶ月以内は再発作の可能性が高いと言われています。この期間は応急的な処置だけにとどめたほうがいいです。また抗血小板薬や経口抗凝固薬が投与されている場合は原則として服用をやめないようにしましょう。
今日は全身疾患•有病者のお話をしました。ストレスをなるべく加えずリラックスして治療が受けられるようスタッフ一同環境整備に注意します。また、表面麻酔を使用し痛みのコントロールを可能な限り行いますのでご安心ください。治療によっては対診書で医科との連携をとった後に治療開始になることがありますのでごご了承ください。